あらゆる国の料理やお酒が楽しめる街、神戸。個性豊かなのはお店だけでなく、そのオーナーの魅力もまた人々を惹きつけてやみません。
今回、神戸を代表する女性オーナーの皆さんに集まっていただきました。ワインバー、クラシックバー、蕎麦屋と、それぞれのタイプは違えど通じるところがある面々です。女性ならではの視点にハッととさせられたかと思えば、オーナーとしての熱い思いまでたっぷり語っていただき、女性ライターのひとりとして私も感じ入るところが多々ありました。
お話しいただいたのは以下の4名の方々です。
(※編集部注:アクリル板等の感染対策の上、取材を行っています。また、取材日である2021年9月5日時点ですべての店舗において休業および酒類の提供を中止しています。)
金 明順(キム ミョンスン)さん(通称:アキちゃん)
ワインバー flamme(フラム)のオーナー。神戸サウナの西側のビル7階にあるお店の中にはなんと本物の暖炉が。そこからフランス語で炎を意味する「flamme」という店名になりました。
伊藤 恵麻さん
ワインバー ecaille(エカイユ)のオーナー。flammeとはまた違ったタイプのワインを提供しており、フードにも定評のあるお店。恵麻さんの妹さんもスタッフとしてお店に立たれています。
東野ともえさん
そば処 堂源のオーナー。自身が惚れ込んだ神戸の蕎麦屋「堂賀」にて修行したのち、現在のお店をトアウエストにオープン。常連には有名人もたくさん!
井上恵梨子さん
BAR OWL(オウル)オーナー。もともとジャズバーだったお店を井上さんが譲り受け2015年からオーナーに。OWLは英語でフクロウを意味し、フランスのジャズレーベルのから取られたとのこと。
それではどうぞご堪能ください!
神戸でお店をはじめたきっかけは?
ーー皆さん、それぞれ特徴あるお店をお持ちですが、そもそもどんな経緯で神戸でお店をはじめられたんでしょうか?
金さん もともとずっと飲食店で働いていました。「source」というイタリアンのお店で長く店長をしていて、いつか自分でもお店を持ちたいなという気持ちはありました。
そこを退職後、ちょっと偵察のような気持ちで入ったワインバー「D」で「あ、ここや、ここしかない」って思って、次の日すぐに雇ってくださいと挨拶に行って働き始めました。
そこで8年働いた頃に、自分の体力や気持ちを考えたときに「今だ!」と思って自分の店を出したんです。
伊藤さん 大学卒業してからインテリアデザインの仕事をしてたんですが、2001年に日本を離れてニュージーランドにワーキングホリデーに行きました。そのとき、英語以外にもなにか学ぼうと思って行ったのがワインの学校だったんです。
その後2004年にオーストラリアのシドニーに移って、レストランやカフェで働いて。でもそれだけだと生活できないからネイルサロンを開業したりオンラインでアンティークショップをやったりと、いろいろやってました。そこでふと2016年頃に日本に帰りたいなと思って帰ってきました。そのときに、次何しようか?ワインやなと。
私は出身は大阪なんですが、帰国するにあたって大阪という選択肢がなくて。神戸に来たとき、なんとなくシドニーの空気感と似てたから「ここならできるかも」と。
そして2016年に神戸のとあるワインバーで働かせてもらって、その後2018年にエカイユをオープンしました。
東野さん 出身は福井なんですが、大学で京都に、そして結婚で神戸にやってきました。でも、その後離婚して、家族と話し合って、自分でもいろいろいっぱい考えて、地元には帰らないという決断をしたんです。実家に帰ってしまうんじゃなく、自分で道を開いていかなきゃいけないって思って。
いろいろ考えた末に思いついたのは、自分が神戸で大好きな味はお蕎麦だったんです。それが、師匠のお店の「堂賀」でした。そこで修行したいと思って、知り合いのバーのマスターにつないでもらって、1年間修行させてもらったんです。
師匠は残念ながら病気で亡くなってしまったんですが、大好きですべてが尊敬できる人。修行が終わった後、堂賀に残ることも考えたんですが、看板が大きすぎるし独立しようかなぁと。漠然と思っているときに、物件も資金も借りることができて、もう止まれなくなってスタートしました。
井上さん 生まれは神戸で、前職はアパレルでした。兄も神戸で飲食店やってるんですけど、私はアパレルやりながら週に1回、兄の店の間借りしてちょこっと飲み屋をやってたんです。その時来てくれたのが今のバーオウルの先代のマスターです。
「飲みにおいで」って言われて何度か行ってるとマスターが急に「店しようと思わんのか」と。「いつかできたらいいですけど」って言ってたら「やったほうがええ!」と、マスターから急に店を任せられるという、棚からぼた餅状態で。
でも何の知識もないし、神戸は昔からお店やってるすごい人たちも多いし、その人たちと同じようにしたって絶対勝てない。だから服装もバーコートじゃなく、店の雰囲気に合うようにちょっとレトロなものにして、ジャズバーだけど私はジャズを知らないから流さないし、接客だけはずっとしてきたから、それでお客さんに助けられて今があるという感じですね。
先代のマスターは「えりちゃんいけるから」としか言ってくれなかったですけど、人づてにきいたところによると「あの子が店におったらおもろいやろ」って(笑)。
女性ひとりでお店を持つなんてかなり勇気が要りそうですよね。それでも、彼女たちの背中を押してくれるおおらかさとでもいう雰囲気が、神戸には確かにあるようです。
それぞれの魅力を教えて!
ーーところでみなさん、日頃から仲が良いと思いますが、あらためてフラムのアキさんについてはどういう印象をお持ちですか?
伊藤さん 女同士で同じワインバーだと「本当に仲いいの?」ってめっちゃ言われるんですけど、私アキちゃんめっちゃ好きで。周年のときも来てくれて、もうカウンターの中に入ってもらって(笑)。尊敬してるし女性としても好きだし、扱ってるワインも違うから勉強になる。
東野さん アキちゃんは、いつもニコニコ接客してて、なんでこんなにニコニコできるんだろうって。
井上さん めっちゃお姉さん。いつも品がある接客で落ち着いてらっしゃるし、いつ行っても同じトーンで、ちょっと背筋が伸びるような。
ーーでは、エカイユの伊藤さんについてはどういう印象を?
金さん 恵麻ちゃんは、かわいい!おしゃれで、フランス人みたい。お互いワインバーをやってるけど、それぞれ違うものを持っているという感じ。全然違って、私も頑張ろうって思える。
東野さん 恵麻ちゃんのところにお客さん連れて行ったら全員通い詰める!誰に紹介してもはずかしくない。
井上さん 恵麻さんはお店やるまでにもいろんなことされてて、色んな人とも知り合っててもうスゴイ人すぎる。有名レストランのシェフとコラボしてお店でオリジナルメニュー出したり。
伊藤さん うちの家庭用より狭いキッチンでどんなお料理をしてくれるのかって、化学反応を楽しみたくっていろんなレストランの方を呼んでます。それに合わせて私もペアリングでワインを選ぶんです。また来年もする予定なんですけど、来ていただけるのはすごくありがたいですね。
ーーでは、堂源の東野さんについては?
井上さん 私は大阪にいたので神戸のバーって全然知らなくて。そんな時にともさんはいろんな人紹介してくれた先輩です。面倒見もよくて、「教えてる」っていう感覚はないと思うんですけど、サラッといいこと言ってくれる。勝手に保護者のように思ってますね。
金さん ともちゃんはいつも気配り心配りがすごいなって思います。まじめで、根っこは職人さん。私のともちゃんのイメージは、いつもビシっとかっこよく蕎麦を打ってる、そんなイメージかな。
伊藤さん ともちゃんは本当に老若男女いろんなお客さんを連れてきてくれて。たぶん70代くらいの、昔から神戸で遊ばれてた「遊びの達人」みたいな人たちとも来てくれて、その人たちとの会話がすっごく楽しそうでずっと聞いてるんです(笑)。先輩たちにあんなに「ともちゃんともちゃん」って何でも言ってもらえる存在ってなかなかないですよね。本当にすごいと思う。
ーーバーオウルの井上さんについてはどうでしょう?
金さん もちろん店もかっこいいし、先代のマスターが「あの子はこの店に合う」と思った通りのはまり役。まるで映画のワンシーンみたいな。喋り方もすごい好き。オウルいくとたぶんみんなハマるんだろうなって。お客さんたちも心地よくあしらわれているような感じがしますね。
伊藤さん 私、1回飲みに行ったときに常連らしきお客さんとすごい明るいテンションで喋ってて、それがなんか素敵やなって思って、飲みながらずっと見てたんですよね。お酒が進むというか(笑)。
東野さん 神戸には本格的なオーセンティックバーからカジュアルバーまでありますけど、そのマスターたちがみんな彼女で癒やされてるんですよ。盗みたくてもぜったい盗めない、プロが癒やされるというすごい技。ほんとに、無敵やと思います。
お聞きしていると、プロフェッショナルであるみなさんがお互いにリスペクトし合っているのがわかります。お客さんを紹介しあったり、自ら足を運んだり。4人がまったく違うキャラクターだからこそ、それぞれに根強いファンがいるんですね。
自分のお店を持つことの幸せとは?
ーーお店をやっているといろんなことを経験されていると思いますが、お店を持ってよかったなと思うことはどんなことですか?
金さん 私もインテリアの専門学校に行っていたので、自分の家か店をデザインするという、その夢の1つが叶ったんですね。自分で図面を描いて職人さんにこの店を作ってもらったんですが、まずそれが1つ達成できたこと。
あと、私はおばあちゃん子だったんですが、おばあちゃんが焼肉屋をしてたんですね。ずっとおばあちゃんにくっついてお手伝いをしたり、常連さんに可愛がってもらったり、おばあちゃんの背中を見て育ったところがあって。だから私もおばあちゃんみたいに飲食で長く元気に商売したいっていうのがもう1つの大きな目標で、それが自分の店を持つということで現実に向かっているなって思います。
お客さんとの距離感とか、どんなお店をしたいのかとか、若い頃だったらまた違っていたと思うし、この年齢だからこそ良かったなって思います。これからもまだ長く頑張らないといけないですけど、頑張っている仲間がいるというのは心強いですね。みんないっしょに歳取るし、それを楽しんでいきたいかな。
伊藤さん 日々幸せなんですけどね。私もアキちゃんと同じくインテリアデザインを学んでいたので、自分がデザインしたものが形になったのは嬉しいです。
お客さんどうしも仲良くなって一緒に遠足行ったりお食事会したり、家族がどんどん増えていってるイメージなんですよ。お店が忙しくてなかなか注文聞けないときでも「いつまでも待っとくから」と見守ってくれる、いるだけで温かくなるようなお客さんもおられて。
お店やってると普段出会えない人とも出会えますし、他人と築ける家族観というのがすごく幸せで、やっててよかったなって思いますね。
私もお店は腰が曲がってもやるつもりです!
東野さん 私は3つあるなと思っていて。
1つ目は、私は人に自慢できるようなことって何もなかったんですよ。誰かに養ってもらえばいいって思って生きてきた。でも、今はいつ死んでもいいって思えるくらいいい仕事を持てて、みんなに来てもらえるお店も持てたというのはすごく嬉しいことです。
2つ目に、その前の人生は福井で生まれて京都で学生になって、神戸に来て、それぞれいつも一人でスタートなんですね。そのとき、一人って寂しいからみんなにいい顔して、苦手な人にもニコニコして一緒にいた自分がどこかにいる。でも今は、大切な人が何人かいたら、自分が苦手な人に近づいたりいい顔したりする必要ないなって思えるようになったんですよね。それは若い頃だったらできない、今の歳だから思えるようになったこと。
3つ目は、私は子どもがいないから、お店に「堂源」って名前をつけるときに実家のお寺から1文字とったのは、親に子どものように思ってほしいと思ったからなんです。私にとったらお店は赤ちゃんといっしょで、どんなに苦しいときでも放棄したらあかんし、「絶対潰さん!」という気持ちがある。親が人に自慢できるような店になるよう努力してる最中なんですが、そういうものにできてよかったなってすごく思っています。
井上さん お店をやるまでは雇われてて、いろんなスタッフが周りにいて、接客するにしても誰かに相談したりして答えを出してたんですけど、今はひとりなのでなにか判断するのも全部自分ひとりでやらないといけない。そんな時に、今まで自分では思いもしなかったような考え方をするようになっていたりして、新しい自分に出会えたと思います。
私はもっと弱いと思ってたんですけど、お店に立つと普段だったら思いつかないようなこと思いついたり、お店にいると変われるというか。今までやってきた仕事で、今の自分が一番好きなので、そういう自分に出会えたことがお店やっててすごく良かったって思えることですね。
このへんは、普段お店ではあまり語られない背景かもしれません。四者四様のドラマがあり、きっかけがあり、モチベーションがある。でも、共通しているのは自分を再発見して、今のご自身を誇りに思っていること。だから輝いている。同じ女性として、私もがんばろうと思いました。
ベタですが、神戸のいいところってどこ?
ーーところで、神戸のいいところってどんなところだと思いますか?
井上さん いい意味でちょうどいい田舎なところ。そして人と人との距離感がちょうどいいと思いますね。もしかしたら若い人には物足りないかもしれないけど、大人が落ち着いて飲んだり遊んだりできる街かな。
伊藤さん シドニーに12年間住んでましたが、シドニーも山と海があって自然と都会が共存してるようなところだったので、神戸に来た時そんなに違和感なかったんです。神戸も自然と都会がちょうどいいバランスで楽しめる。
今、海側に住んでるんですけど、汽笛が聴こえてきたときに「ああ、神戸に来た!」って感動しましたね。
金さん 本当に、ちょうどいいサイズ。海と山があるのは最高。食べ物もなんでも美味しいし、すごくいいですよね。
東野さん 私は福井の田舎で育って京都に来て、建物が低い京都の景色も好きだったんですけど、神戸に来たらもうかっこよくって!ビル高い!大丸かっこいい!って。
でも、山に行ったらすごく静かで。海にすごく憧れがあるんですけど、海もガッツリ海!って思って(笑)。田舎よりも田舎があって、でも街すごくかっこいいし、本当に癒やされる街ですね。
神戸の良さとして、コンパクトであること、程よい田舎であることは多くの方が口にします。海や山の自然と、洗練された街がバランス良く共存し、そこで息づく人たちのつながりがまた街を生き生きとさせる。それが神戸の魅力なのではないでしょうか。
それぞれ個性豊かなお店ですが、みなさんとっても仲良しで、お話を聞いているだけで幸せになる時間でした。このオーナーどうしの仲の良さも神戸ならではですね。
ぜひ、それぞれのお店をあなたのチェックリストに加えてください。きっと期待以上の笑顔で迎えてくださるはずです!
三宮一貫樓 安藤からひとこと
今回のKOBEZINEいかがでしたでしょうか?着想から2年ほど温めた企画でしたが、予想をはるかに超えた面白さでした。
彼女たち4人に共通する生き様として、運命の大きな流れに逆らわず、その中でしなやかに強く、美しく、毎日を楽しんで生き抜いている。そんな姿が印象的でした。
現在、何かと生きづらい世の中が続いていますが、この苦境を乗り越えるためのヒントが詰まっているような気がします。
大手を振って街でお酒が飲めるようになれば、ぜひ4人のミューズのお店をハシゴして、いろいろなお話をしてください。
店を出る頃には、日頃悩んでいることの答えが見つかっているかもですよ。